メンチカツの想い出


久しぶり奥様がメンチカツを作ってくれましてね、そこで食事をしながらメンチカツの想い出をかたりました。


「あのね・・ダダは高校を出たらまもなくフルタイムの仕事に就いたんだよ。写真学校の夜間部に通うために昼間はクリニーング組合の会報を作る仕事をもらったわけね。その事務所には台所があってね、昼になると小さな鍋で米を炊いて、それが蒸れる間に近くの肉屋さんにいってオカズを買うのがならわしになっていたんだよ。

でね、仕事に就くにあたってダダの姉さんはこういったのよ・・


 イチロー、食事には気をつけるんだよ。あなたは子供の頃には栄養失調で育ったのだから、毎日しっかりと食べるのよ。週に一度はトンカツみたいな肉を食べなきゃいけないのよ。わかった?・・いいわね?・・・」

 と、そんなこと言われてね・・トンカツは大好きだったから毎日食べたかったよ・・けど値段が高くてムリだったんだよ。食堂で食べるなんてぜったいにできない、だから自分でご飯を炊いて肉屋で揚げ物を買ってきていたわけよ。

 でね、肉屋では昼前からいろいろな揚げ物が並べられていてね、ダダの好きなのはコロッケとメンチカツだったわけね。トンカツは高いので土曜日だけと決めて、他の日はたいてい1番安いコロッケを2個、すこしパワーをつけたいときは大きなメンチカツを一枚とか買ったもんだよ。ママの作ったのと違って肉屋さんのは薄くて大きくて、だけど肉はあんまり入っていなく、コロッケよりはましという感じだった。  

だけど毎日の昼ごはん代というのは節約しないと出費がかさむので、いつも真剣に考えていたんだよ。これを食べたいけど、もしそれでフィルムを買ったら写真を何枚撮れるな・・と考えて食欲を抑えていたわけね。そんなわけだからガールフレンドも作らなかった。喫茶店でコーヒーなんか飲むとフィルム何本買えるとか、そんなことばかり考えるので女の子とデートするのは苦痛だったんだよ。だからダダを好きだと言ってくれた18歳の子とも、ごめん、ボクは長い勉強をしなければならないのでもうデートはできないんだ、君のことは好きだけど、どうしても写真の勉強をしなければならないんだよ・・そう言って別れをつげたわけ・・したらジャマしないからたまには会ってよといわれてね・・でも、ダダは女の子と過ごす時間はぜんぜんプロダクティヴではないので自分の成長をさまたげるのだと想っていて、気持ちは変わらなかったよ。

 だけどね、優しい女の子と別れたのが辛くて事務所の縁側で外を向いて涙ぐんでいたんだよ。するといつのまにかオーナーの奥さんが立っていてね・・その人はダダの友達のお母さんだったのでダダの事情もしっていてね・・そしてこう言ったんだよ。

ナガちゃんはきっと立派な大人になるよっ!! ってね。そして感動しているようすだったよ。だけどダダは自分の悲しみに包まれていたので奥さんの言葉にはまったく反応せず、黙りこくっていたんだよ・・だけどね、きっと立派な人になるという言葉は心に響いてね、そうなんだ、自分は未来のサクセスと引き換えに彼女と別れたんだ!! と考えたらなんだか気が軽くなってね、すこし元気が出たのでご飯を炊いて肉屋に行ってメンチカツを買ってきたんだよ。でも、その日のメンチは美味しいとは感じなかった。味気ないというか、ただ体をもたせるために腹に流し込むんだという気がしてね・・・ああ、このメンチをまた美味しく食べられるようになるといいなぁ・・・と、そんなことを考えていたんだよ。でも、二日間もしたらメンチの味はふつうに戻ったよ。そしてイッショケンメに写真を撮っていたんだよ。

ダダには、メンチを食べるたびに自分が19歳くらいだったときのことを想い出すわけね。

 今、こうしてファミリーができてママがメンチを作ってくれて食べているのはなんと幸せなことかと嬉しくてねぇ・・・」

 こういった想い出はあれこれと語って聞かせるのですが、この時ばかりはケニーが泣きながら抱きついてきて、

「とてもよい話だったよ、ボクも頑張るからね・・・」

 と、言いました。

 学校を出たら世間の荒波が待っていることをよく教えているので、このごろはその現実味が判りつつあるようです。ケニーの心に響く話ができてとても嬉しかったです。


 by いったん家を出たら、けして親にたよることなく自分の力で生き抜く。そのチカラを今のうちに与えておきたいとヒタスラ願うダダ。


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