前号のSATマガジン


SATマガジンの前号は、ここの皆さんのお買い上げパワーが猛烈に発揮されてホボ完売だったそうですよ(*^o^*)


感謝いたします🙏


しかし文字が小さくて読みにくいと不評で、たしかにまったくそうでボクも読むだけの目リョクがなかった😅


そこで、文字をデカくして読めるように、

ここにリポートを載せますね♪


WORLD STEEL CHALLENGE 2021

   奇跡が起こりました!!


 あの剣士郎が世界大会のライフル部門で世界記録を出したのです。勝てるはずのない13歳が大人の強豪達に挑んで総合優勝したのです!!

 4月15日から17日の3日間、アラバマ州でスティルチャレンジの世界大会が開催され、中学生の日本男児がダットサイト搭載のセンターファイヤ ライフル部門で大会新記録を出して優勝しました。

 こんなとんでもない勝利を誰が予想できたでしょうか!! 親でありコーチでもあるボクでさえも中学生のケニーが優勝するなどとは想像できなかったことです。

 もちろん、世界記録に挑戦して60秒の壁を破ろうという果てしない夢を追いながら2年近い訓練を積んではきました、が、その可能性は10に1つというものだったのです。ケニーは、T-Rexの号で書いたように63.57秒という成績でキャリフォニア州ではトップに立ちながらも、その後の伸びは停滞していたのです。そして、そのままでワールドに挑戦したわけですが、その大舞台でいきなり59.27秒という世界記録を出してしまいました。

 このリポートは、射撃に興味のある自衛官や警察官諸氏にはぜひとも読んでいただきたいでアリマス♪

 2機の旅客機を乗り継いで2000マイルほどを飛び、アラバマ州のタラデイガ市に入ったのは試合開始の3日前、2日間のプラクティスを考えての日程でした。

 20分で射場まで行けるというホテルに着いたのは12日の夕刻で、充分な睡眠をとってから昼前に試合場に行きました。

 タラデイガの射撃場は有名でしたが、それはもうほんとに驚くべき立派さでした。本格的なゲイトがあり道は舗装されレンジハウスは城のように豪華で大きいのです。

 600ヤードを撃てるライフル射場には54もの射座があり、別のところにあるピストル射場は20面を超えるのです。

 ピストル射場は、本戦射場と練習射場とが大きな丘を挟んで向かい合うように作られています。本戦側には12面ほどの射場が直線的に横並びになっており、端から端までは300m以上もあります。駐車場も広大で500台の車両くらいは楽に停められるでしょう。こんな素晴らしい射場は見た事なく、誰もが全米で1番だろうと言ってました。

 この場に立つ名人たちの射撃をネットの動画で幾度も観察していたケニーは、気押されするどころか充電の効いた電池のような活力を発散していました。この様子ではケニーらしい闘いができて目標の63秒くらいは出せそうだとコーチは感じていました。その根拠としては、先週行われたマリポサ戦での成績はPCCOが63.30秒、オープンピストル86.77秒というもので、これなら若きプロとしては恥ずかしくはない成績です。

 ライフル部門での強豪といえばクリス ベレットとグラント カンコー。この2人は群を抜くスキルを得ており常にトップの座を奪い合う仲なのです。その下にはジュニアの腕達者がゾロゾロとひしめき合い、ケニーはそこにどれくらい食い込めるかが楽しみでした。

 「ダダ、クリスが来たぁ!!・・」

 練習場で少し撃ち、休憩をしていたケニーがハッと細い首を伸ばしました。

 憧れのシューター、クリス ベレットがクルマから父親とともに降りてきました。クリスは自分と同じのティームのシャーツを着ているケニーを見て快活に挨拶してくれます。

 じつは、ある時のフレズノ戦でケニーが猛烈なスピードで撃っているのに驚いたカートというプロシューターがケニーの射撃を動画に収めたのです。そして彼は試合後に話をしようと言い、プロのティームに入らないかと誘ってくれ、翌日にはキャプテンから電話があり、契約しました。

 ティームのオーナーは、ターゲット用のペイントを作る会社の社長で、クリス ベレットも同ティームに在籍していたのです。

 こうなるとティームの足を引っ張るシューターではイケナイので父としては日本人らしいプレッシャーを感じていたのですがね。

 ケニーには射撃を始めたときから重々言い渡していたことがあります。

 それはHumbleであれ、ということ。

 ハンブルの意味は、けして威張ることなく慎ましい態度のことです。オレは上手いんだとか、お前よりも速いんだとかいう不遜な態度だと射撃界ではとても嫌われるのです。馴れ馴れしい態度もいけません。目上にはミスターをつけること。受け答えはきちんとする。しかし勧められたら遠慮はせず、ちゃんと礼をいうこと。目下を見下さないこと。いつもゆったりと落ち着いていること。相手の言葉をよく聴くこと。笑顔で接すること・・などなどです。こういう礼儀については射撃よりも厳しく育てているのです。

 だいたいにアメリカの子供は躾が悪く、態度も悪いので大人たちから嫌われます。子供に射撃をさせる親たちは中流以上の人々が多いので躾にはうるさいのです。一言二言話せば子供のダメな人格は見抜かれて大人たちは離れてしまいます。ハンブルな子だと喜んで何かしてやろうと想われるわけです。

 射場で出会う高名なプロたちに気に入ってもらえるかどうかで将来が決まるという部分もあるのです。

 自分の良い未来を構築するためには他人に好かれることが大切で、そのための第一条件、これがハンブル(ハムボォと聞こえる)というわけです。しかし口先だけで機嫌を伺うオベンチャラ人間は底意を見抜かれて避けられます。

 アメリカの中流人は、他人を見抜くチカラが日本人よりもはるかに上なのです。表面では褒めても子供だからとて容赦はしません。アメリカ人も裏表を明瞭に使い分けるのです。

 躾とは身体から出る美のことです。

 それは言葉と態度の美しさ。

 ようするに、気取ることなく素直で正直な人格を備え、他人に優しく接すること。たったそれだけのことです、が、これが少ない。

 ケニーは高度なシューターに会うたびに日頃の疑問を問いかけ、よく聴き、きちんとお礼を言います。もうこれだけで「あのキッドは好いやつだ」という第一印象を与えるのです。

 「ボクは、あなたの動画を見て学びました。お会いできて本当に嬉しいですぅ・・・」

 見知らぬ少年がはにかみながら、このように話しかけてきたらどうして嫌われましょうや。

 そんな子を疎んじるような大人は脳がイカレているので近づくに値しない。

 沈黙は金、かもしれません。

 が、雄弁はチタンではないかと。

 チタンは光りませんが、金よりもはるかに強靭ですよ。

 さすが米国人となってタクティカルライフを実行している親の子ですね(笑

 クリスが支度をしている間に彼の父さんがクリスの銃を持ち出し、ケニーに撃ってごらんよと言いました。そして自らタイマーを持ってケニーの後ろに立ったのです。アメリカ南部の人種差別は有名なので内心で身構えていたのですが、ケニーはジョージア州から来た話し好きでフレンドリーなクリスの父さんのお気に召したようです。コーチは、ホッとしながら成り行きを眺めていました。

 そのステイジはアウターリミッツという難コースです。2発を当てて横っ飛びしてから残りの3枚をヒットするというもの。ケニーは3秒前半で撃ち、ラストには3.07秒というハイスコアを出しました、これは彼らを驚ろかすに充分なタイムです。ケニーは前々からクリスの使うJPカスタムに興味をもっていたので嬉しくてたまりません。

 「他人の銃を借りてイキナリそんなタイムを出すのかい!!」

 クリスは驚きを隠さず、かつ嬉しそうにニコニコしています。その優れた人格を認識したコーチはコソッとケニーに言います。

「彼とは良い友人になれるね♪」

 その後にクリスが撃ち、1本は2.85という素晴らしいタイムを見せてくれました。ケニーは歓声をあげます。こんなタイムを出せる人はキャリフォニアにはいません。

 しかし、後になって、このアウターが天下分け目の戦いになるとは知る由もありませんでしたよ・・・

 この練習場では多くのシューター達と挨拶を交わし、ピストル世界一のKCにも会え、ジェシーという有名な美人のウーマンチャンプも優しくしてくれました。ネットの動画でいつも見ている有名シューターたちに次々と逢えたケニーは夢がかなったと大喜びです。

 KCはケニーの練習を観て言いました、

 「彼はすでにグッドシューターだ・・」

 ただ、アラバマの天候は不安定で湿気が強く、初日は気温も高く汗がジワジワと出てヒヨコのようにスタミナのないケニーはバテ気味。まだ治りきれていないアトピーが出ないかと父は冷や汗ものだったのです。

 初めは調子良かったものの急速に集中力が落ちてきたので早々に引き上げます。疲れたのにゴリ押しで続けるというのはけして良くはありません。疲れたら止めるべし。これも秘訣のひとつではないかと想うのです。射撃は、冷静な知能をもって闘うものです。ど根性や並外れた体力で勝つというようなものでは、けしてありませんからね・・・

 興奮から覚めると空腹だったのでサブウエイに駆け込んでアイスティーと野菜サンドを食べ、夜はノンビリと過ごしました。タラデイガの街には黒人がほとんど、というくらい居て、彼らはすごくフレンドリーで親切です。ケニー曰く、キャリフォニアの人々よりもアラバマの人たちのほうが親切だね。しかしサブウエイで出会った3人の親切な警察官によると犯罪は多いのだそうです。警察官たちはケニーのティームシャーツを見て競技に来たのだと判って話しかけてきたのです。

「君はさぞかし射撃が上手いんだろうな~・・どんな銃を撃つんだい?・・そーかそーか、良い成績を出してほしいよぉ♪」

 こういう心に余裕のあるオマワリさん、日本にはなかなか居ないでしょうね。

 翌日、空を仰ぐと厚い雲が垂れ込めていました。たまに雨もパラつきます。昨日とは一転、涼しくて日本の梅雨を想わせる重たい空気が肌に優しい日となりました。

 ケニーの疲れは一晩で消え、元気いっぱいで練習しました。いつもは8ステイジを撃てば疲れて座り込むのに、この日はクタビレません。しかし、走りたがる馬を制止するようにコーチは練習を打ち切ります。

 「この元気の続きは明日に出しなさい」

 優れた指揮者は、オーケストラ団員の演奏が熱をおびてきたとき、彼らの気持ちを燃やし尽くす前に練習を止めさせて本番に臨むのだそうです。そう、バーンナウト(燃え尽き)前に温存するのが良いとボクも想うわけです。

 ホテルには2泊し、次からはサメジーたちが借りてくれた家に移ります。夜になるとアリゾナからサメジーと弟子のユジーンが到着し、翌日にはオハイオ州からタクミがやってきました。この5人で湖畔の別荘にて共同生活します。ホテルよりも安くて素晴らしい家なので豪華な休暇気分です。サメジーはアリゾナ1番のシューターでありスティルチャレンジ界ではピストルの四強に入るという腕前。タクミは高校時代にリヴォルヴァ部門で優勝したような男です。タクミはクルマで来たので玄米釜を持参してくれて大助かりです。ケニーも父も玄米食なのでコレが食べられないと辛いのです。

 そして翌日、いよいよ試合が始まります。

 本番は午後なので朝はゆったりと過ごし、昼前に100発ほどの練習をしました。

 初日のケニーはRFROの部門にチャレンジです。この意味は「リムファイヤ ライフル オプティック」つまりダットサイト搭載の22口径ライフルという部門です。

 近年は22口径を撃つのが大流行で、射撃人口もこれに集中しているのです。22口径部門には、これ以外にアイアンサイトもあり同じくピストル部門も2つあります。

 タクティカル シューティンを目指す父としては22口径は好きになれず、ケニーには世界大会の雰囲気に慣れさせるために撃たせることにしていました。

 コーチとしては、本物の銃だけで勝負させたい。ところがケニーはジュニアシューターたちと勝負したくて自分の安物銃を削ったり磨いたりしながら徹底的に改良し、ネックとなっているマガジンのケアも習得し、弾さえ良ければなかなかジャムしないところまで自分で仕上げていたのです。メカに対するセンスも親似というわけです。

 安物、と書きましたが本体は30年も前に85ドルくらいで買ったルガー10/22という遊び用の銃で、これに質の良いAMTバレルや特製のトゥリガーを入れて使っているのです。

 もともと、22口径で試合に出るつもりはなくて登録はしていなかったのですが、スクワッドに空席が出たのでどうかと誘われ、初日のワームアップというつもりで参加を決めました。コロナに罹って出られないシューターが散見されていたのです。

 22口径ライフルはそれほど練習していませんでしたが、銃は軽く反動も無きに等しいので9mmライフルに慣れているケニーならば良い成績を出せるだろうと考えていました。

 スティルチャレンジは銃の種類によって13の種目に分かれるのですが、その中で最も速く撃てるのが22口径ライフルなのです。ですからターゲットを速く捉えるための訓練には適しています。それと弾がセンターファイヤに比べて安いのも人気のひとつでしょう。

 どうして22口径はイヤなのかって?

 それは、リムファイヤには弾の形状に欠陥があり、そのクォリティーも低く、ジャムがつきものだからです。とにかくようジャムるのですよ。

 勝負は時の運とはいえ、銃の故障で負けるなんてイヤぢゃぁー!!

しかし・・・

 運の良いことがおこりました。

 会場に「イーリー」という22口径弾では最高の品質と言われている弾屋が出店していたのです。1人あたり500発限定で販売してくれると。いくら探しても入手できなかった弾が目の前にあったのです。値段は45ドル、入手困難の今としては高すぎないでしょう。

  22口径弾はリムファイヤです。ということはリムの部分に起爆剤がぐるりと入っているのです。この部分がクセモノで、リム全体に起爆剤が均等に行き渡っていない弾が混ざるわけです。その空疎な部分をファイリンピンが打っても発火しないわけです。しかし、イーリーはオリンピック選手も使うという高級弾で、そこらのヤスモノ弾とは異なる・・と専らの評判なのですよ。

 これが売られているのを発見したのがトロフィーにつながることとなります。

  最初の試合が始まりました。

  RFRO部門だけで146人もの参加者が3日間に分けて戦います。アメリカ全土からハードルの高い世界大会にこれだけ集まるということで22口径の人気の高さを伺い知れます。

 最初のステイジはショウダウンから。

 いよいよ世界の舞台に立つケニー・・・ 

 RO(レンジオフィシャル)たちに対する態度を見ても気配りが見え、落ち着いていました。この時のために月に2度の公式試合に出て、週に1度のプライベイトマッチも撃たせてきたのです。その効果は甚大という気がしました。

 片田舎で育った早撃ち小僧が大舞台に立って萎縮する、そんな想定もあったのですが、それよりも大自然の中でのびのびと育ったおおらかさがケニーの表情に出ており、喜びの笑みさえ浮かんでいました。

 「競技が楽しくなかったらすぐに辞めなさい」これは常々言ってあります。

 撃つ前に自分を落ち着かせるマジックワードも与えてあります。

 「Nothing to be afraid of」

 恐れるものなどまったく無い、

という意味です。

 失敗しても誰かが傷つくわけでもなく、病気になるわけでもなく、家族を失うわけでもなく、父も母もけっして怒ることもなく、世の中は平和そのもので何も変わらないのだから心配ご無用というわけです。

 ただ自分を試すための楽しいゲイムにすぎない、それだけのこと。栄光も敗北も時が過ぎれば空気に浮かぶ泡のようにフーッと消えて歴史の彼方に消滅する。勝利のトロフィーもやがては色褪せ、鮮烈な記憶さえも消えるもの。個人の存在は浜の砂つぶに等しく、その明滅も空から観れば瞬時の微かな輝きでしかなく、長い歴史の中にあってはとくに目立つ存在ではない。

 ただ、自分が生きる上においては人生を楽しむことが大切で、そのためには何事かに打ち込むとか自分を捧げるとかしながら歓びを得るのがよいかと。

 そういう意味で「恐れることは無い」と教えているのです。

 ところが父のように自由奔放なケニーはこのごろ大胆不敵になっており、

 Shoot fast without missing!!

 と、唱えているんですよ。

 「ミスショットせずに速く撃て!!」

そりゃそーですけどさぁ(笑

 この一途さがケニーの武器でもあります。

 突進する若者には、もっともらしい哲学や叡智などは大した意味もない。

うん、それでよろしい!!

 しばらくターゲットに銃を向けて振っていたケニーは銃口を前方に立つフラグに向けて静止します。これがROへの合図です。

 アーユーレディー・・スタンバーイ・・

 ブザーが鳴る。

テテン テッテッテン!!

 ・・・ what・・?

 後ろの女性から驚きの声が・・

 1.4秒くらいだったと想います。

 ケニーが世界に躍り出るに充分なタイムでした。小心者の父のアイフォンは動画を撮りながら小刻みに震えていました。

 果敢にチャレンジするケニーのスピードは精彩を放ち続けます。

 5回撃ち、1番悪いタイムを消すことができるというルール。4回の合計タイムは5.42秒でした。ここではランスが5.04というステイジでの世界記録を出し2位のスタートです。あと7回戦もある、0.38秒くらの差なら追いつけるさ。ケニーの表情には中学生ながら強靭なものがありました。

 作戦、というか狙いはこうなんです。アウター以外はすべて8秒を切る、8秒からどれだけ引けるのか、その貯金分で勝負する。

 いえば簡単ですが8秒というのは、5枚のターゲットを2秒以内でヒットするということで、これは常人には不可能です。神がかり的なトップシューターだけが身につけているスキルなわけです。誰にも負けない強い精神力や血を吐くような努力をもって全身全霊を叩き込んでも成就はできない。天からもらった才能という元素が必要なのです。

 こうして良い出だしを得たケニーは半日をかけて快調に飛ばします。多少のミスはありましたが、ダメイジになるようなことはありません。そして全ステイジを終えての成績は以下の通りでした。

ショウダウン 5.42sec (上々)

 スモーク&ホープ 5.68 (上々)

スピードオプション 8.60 (1.4の損)

ペンジュラム 7.97 (上出来)

ラウンダバウト 6.27 (上々)

アクセルレイター 8.02 (1.5の損)

ファイブトゥゴー  7.86 (上出来)

アウターリミッツ 9.60 (上出来)

 (アウターだけは4回撃ち3回の合計)

 「ああ~、3秒も損したぁ・・」

 と、ケニーは残念そう。

 「だけど総合するとわるくないよ、もしかしたら60を切れているかもしれないしね・・」

 そう、コーチはステイジごとのタイムを書き留めたりはしないのです。そういう計算をしながら進むと心理的には害になるような気がするのですよね。

 試合が終わって家にもどるときにネットで成績が発表され、リザルトの欄を見ると、なんと名前が1番上にあるじゃありませんか!!

 Nagata,Kenshiro 59.42sec

ええええー?・・!!

やったぁ!!!

夢の公式60秒切り!!!

 22口径ライフルでは60秒切りでないとトロフィーは(3位までなので)獲れない、という予想だったので希望が出てきました。コーチとしてはジュニア部門でメダルを獲れればオッケイという考えなのにケニーは大人3人の間に割り込もうという幼き野望を抱いていたのです。

 グラントかクリスが1と2位、そしてケニーとランスとネイト、それにカニンガム姉妹とで3位のトロフィー獲得の争いをするというストーリーが観えてきました。

 あとは他のシューターたちが撃ち終えるのを待つだけとなりました。やがて、ネイト ギブソンというシューターがケニーのところにやってきて60秒を切れたと喜んでいました。

「ボクはまだネイトには負けるんだよ、彼はものすごく速いんだよ・・」と過去の戦績を知るケニーが言っていたとおりでした。

 ネイトは17歳、ジュニアのトップを走り続けてきた名人です。

 ありゃりゃ・・では4番だね、

 まあ、それでイイじゃないの・・・

 しかし・・・

 帰りの運転中に成績が発表され、ケニーがソソクサと読み上げます・・・

 1位 グラント

 2位 ケンシロウ

 おおまいがぁっど!!!

おおまいがぁ~!!!

おおまぁーいい・・・・・・!!

 まだ全員が終わったわけではありません、が、スーパースクワッドは午前中に撃ち終わったので、もう60秒を切れるようなシューターはいないのです。

 「いったいクリスはどうしたのぉ??」

「64.30セカンドだよ・・ずいぶんミスがあったようだねー・・」

 「そぉかぁ~・・じゃあ60を切ったネイト ギブソンはどうなの?」

 「59.75だよ、0.33秒で勝った!!」

「うわぁ!! 危ないなぁ~・・」

 0.33差ってアナタ・・・(汗

 戻りの車内でケニーと父は手を握り合って大声で叫んでいました。

 ワームアップのつもりで出たRFROでトロフィーを獲れるとは、なんたる強運かっ!!

 チェストォー!!!

 それにしても・・いったい、どうして出せたことのない成績が出たのでしょう???

 さて、次の日です。

 射場に行くと人々がケニーをじいっと見ています。一緒に自撮りをしたいという大人や子供たちもいました。ケニーを動画撮影する人もいます。ティームキャプテンや仲間も賛辞を惜しみません。なにしろペイペイの子供メンバーが旗手のクリス ベレットを凌駕したのですからね。

これはミニラがキングギドラを倒したような出来事なのですよっ!!

 これからはカミカゼボーイという名で紹介したらアメリカ人たちはどう想うだろう・・♪

 13歳の初出場ジュニアが総合で2位!!

このインパクトは大きかったです。

 特殊なイヤープラグを作っている会社のオーナーに呼び止められて400ドルもする製品をいただきました♪

 そのプラグが気に入った剣士郎は、さらに信じ難い突撃力を発揮します。

 奇跡の日の始まりです。

 2日目、

 オープンピストルとPCCOを撃つ日です。

 オープンピストルとは、フルハウスのカスタム拳銃のことです。拳銃の中では最も精度が高く、より高速で撃てるというスペシャルな道具なのです。これはメインマッチと呼ばれ、大会の花形なのです。

 PCCOという銃はM4タイプの進化したもので、口径が9mmだと想えばよいでしょう。つまりこれで勝てれば世界一のアサルト銃の早撃ち男、ということにもなるのです。

 「昨日は失敗したから、今日はもっと速く撃つからね・・」

 ケニーは22口径での60秒切りを失敗と認識していました。57秒くらい出せるスキルはあるといえばある。だからもっと飛ばすのだと。しかし、9mmライフルは22口径よりずっと重く、トゥリガーを引くたびに反動がガクガクときて肩も顔も揺れるので22口径よりも速く撃てるとは考えにくい。

 とはいえ、実は2月のプライベイトマッチで57.23というタイムを出してはいたのです、が、非公式なので認められてはいません。

 ミスが無ければ出せるというタイムではある。しかし、戦績から観てその可能性は10に1つしかない。世界大会だと実力の目減りがあるもの。今年は63秒でよしとする、というのがコーチの予想です。

 ちなみにワールド戦の舞台においてPCCO部門で60秒を切ったシューターはまだ出ていません。今年こそはクリスかグラントが音速を破って50秒台で争う時代に入る・・という大方の予想でした。

 訓練中において最も多く使った言葉があります。それは「stay on the target」という注意でした。

 意味としては、ダットをターゲットに乗せてトゥリガーを引き終わるまでステイする、という意味ですが、当たり前のようでいて会得には年月がかかるのです。これを日本語でいえば「残心」にあたります。撃った後の止まり、そしてその心のことです。しかし、5枚のターゲットを2秒以内に撃つのですからフラッシュサイティンという手法が必要で、瞬間的にダットを合わせてトゥリガーを引くのに残心どころではないでしょう、しかし残心がないと流し撃ちになったりしてトゥリガータイミングを逸してしまいミスの連続が出るのです。

 「できないよぉダダァ・・・」

 「これができなかったら辞めなさい」

 この会話はおそらく100回は超えたはず。しかし、ケニーはタラデイガに来てからというもの残心の回数が増えており、22口径の試合では、これまで観たこともないような100点満点の残心をやっていたのです。

 銃を高速でドライヴしながらターゲットごとに銃口がビッと静止しているのがコーチの眼にはよく観えていたのです。

 ケニーは、いよいよ「本物の銃の部」に挑戦します。初めにピストル、そして他のシューターを間においてライフルを撃ちます。

 ピストルでは、どれだけの成績か?

 これはコーチにも予想はつきません。というのは、それほど試合には出ていないからなのです。先週のマリポサ戦での結果は86.77秒です。これは上級な大人の選手が出すタイムで、もし13歳の少年がタラデイガ戦で再び出せば瞠目の成績となります。ジュニアでは完全優勝でしょう。次世代を担うジュニア世界のピストル部門で勝てば前途を嘱望されることになります。ジュニアは子供とはいえ、上は17歳までなので年長の彼らはオトナ顔負けの活躍をしているのです。13歳のジュニアだとそれほどの活躍はできないという先入観が誰にでもあるもの。誰よりも小さく、軽く、腕力もない日本人のケニーが想定外のタイムを叩き出すとはコーチを含め世界中が信じなかったことです。

 最初のステイジはランダバウト。

 すっくと真っ直ぐに立ったケニーは両手を挙げました。

 スタンバイがかかります・・

 ブザー音の先端を捉えたケニーは俊敏に抜きました。ホルスタは日本製のゼストです。これより上はないという最良のホルスター!!

 ダダッダッダッダッダン

 1発ミスがあったもののリカバリーが速く損失は少ない。残心はどうか・・あるっ!!

 2回目は5発で仕留めました。

 3回目は7発かかりました

 4回目は5発で・・

5回目は6発・・

 これでよい、平均速度2.29秒というのは目標の90秒切りにはあまりある速さです。

 「ケニー、ステイできてるね、このまま続けられたら良いタイム出せるよ!!」

 次はライフル、

 最初のランは仕留めるのに6発、

2回目は2発目でトゥリガーのリセットができなくて8発を消費。

3回目は5発で、

4回目は7発、

5回目は5発・・・

 トータルタイムは6.65秒

 ケニーは首を横に振って残念な様子、しかし平均1.66秒というのは60秒切りにつながる速度です。

 オレだったら2枚しか撃てないタイムだよ、とROが驚いていました。

 ちなみにクリスのタイムは5.64、グラントは6.71で、ケニーは達人たちの間に割り込みました。

 実は、試合直前になってケニーのライフルのトゥリガーがフルオートになってしまったのです。この時点でトゥリガーを交換すると異なる感触に慣れる時間がないので、ボルトにオイルをだぼだぼに塗ってスィアをクリーンするという応急措置をしました。このトゥリガーはベストだという評判もあったのですが、リセット(引いたトゥリガーが戻ること)の距離にケニーの速いトゥリガープルが合わないのです。とくにランダバウトの2枚目でのリセットが難しい・・というのはランダバの1枚目と2枚目の所用タイムは0.2秒以下なのでトゥリガーを戻しきれないことがあるのです。ボルトの動きが待ちきれない、トゥリガーの戻りがまどろっこしい・・これがトップシューターの悩みであり、この要求に応えようと業界ではトゥリガーもボルトも改良が進んでいるのです。

 次のアクセルレイターでは6.65秒、これは素晴らしいタイム。クリスが6.46ならばグラントは8.15とダメイジが大きい。

 次は難コースの5 to Goです。

 ケニーはここを平均1.84以下で仕上げ、グラントとクリスに1秒の差をつけました。しかしペンジュラムで9.80という失策があり2秒という損失を出します。

 危うし剣士郎!!・・・

 こうして丁々発止の闘いが続きましたが、戦況を分けたのは、かのアウターリミッツだったのです。