SIG PRO 小説



 事件や災難といったものは、前ぶれなく突発的おこるものだ。日頃の平和な生活の中で考える「死」は、現実感などなくて、遠い未来のことか、または他人事くらいにしか思えない。

 しかし、長い人生のある瞬間、それも唐突に、人はどうしようもなく災いの渦に巻き込まれてしまうことがある。まるで運命のツメに引っかけられたように‥‥


先日、こんなことがあったのだ。

最初のところから詳しく書いてみるよ。 6月28日の夕刻、ワシはサンフランからサンディエゴに飛行機で飛んだ。 空港でニューハンプシャー州から着いたばかりのジム社長と落ち合った。 ジムは、ウィルコックス社の社長。秘書のバーバラと営業部長のボブも一緒だった。 大型のペリカンケイスが3個、スーツケイスは四個とうい大荷物だったので、社長はクライスラーのミニヴァンをレントした。


“ハイアットリージェンスィーなんてイーチの気に入るかな‥?”

 7人乗りのゆったりしたミニヴァンでダウンタウンのホテルに向かう途中、ジムがワシに聞いた。運転はボブだった。

“そんな高級ホテルは好みじゃないな、そんなカネがあったなら火薬とブレットを余分に買って、もっとカップの練習をしたいよ”

ワシは、遠慮なしに言った。

“まあ、そう言うなって、ウィルコックスはキミのスポンサーなんだから、ブレットなんか家の床がヒシャげて地面が窪むほど送ってやるからさ…たまには南キャリフォニアの豪華な空気を吸って、楽しくやろうよ… といっても明後日からはミリタリーベイスに閉じこもっての仕事が続くんだがね…”  

ワシは、ウィルコックス社の開発アドヴァイザーだった。特殊部隊向けのプロトタイプができると、それをテストして、改良点を指摘するのが役目だった。 ウィルコックス社には、多くのエンジニアが働いているが、彼らが造った製品が実際に役立つかどうかのテストができる人が居なかった。そこで、スワットやシューティングの経験豊富なワシに役がまわってきたのだ。 その報酬として、ウィルコックスはワシのビアンキカップのスポンサーになり、試合参加の費用などをヘルプしてくれるのだった。 今回の仕事は、サンディエゴの基地でパワーグリップとM4の組み合わせでナイトシュートのテストに立ち合うというものだった。

テストをするのはスィールズの隊員達で、月曜日の夜から始まることになっていた。 サンディエゴには、大規模な軍港がある。空母や潜水艦も多く出入りし、トップガンのスクールもあればスィールズの訓練基地もそこにあった。


“まだ陽も高いし、どうだ? ホテルに入る前に国境線でも見物するってのは…”

“まあ、いいわね、私初めてよ…”

と、若くて美人のバーバラがはしゃいだ。

“よーし、じゃあ、そこのフライドチキンに寄って、チキンナゲットとアイスティーを買おう。遠足気分を出そうってわけだよ”  

それを聞いたボブは、機敏にミニヴァンを駐車場に停め、チキンを買うためにサッとクルマを降りた。営業という仕事がらなのか、頭の回転や身のこなしも良い。

“ヘイ、待ってよボビー、私も行くから…”

 バーバラが小走りでボブの後を追った。

“…可愛いよね、バーバラは…”

と、ワシはあたりを見回しながら言った。

“ウン、あれで頭の回転も良いしね…忙しい時の残業や土曜出勤もイヤがらずにやってくれるんだよ”

“仕事を大切に考える女は、男もそうだけどさ、やはり魅力があるよね…”

そんな会話をしていた。 あたりには人がいなかった。 駐車場には一台のクルマさえ見えない。日曜日の午後はヒマな時間帯らしい。その静けさが気になってワシは外に注意を払っていたのだ。 そして。 まさにその時だ、一台の古いワゴン車がゆっくりと現れた。そして、植え込みの向こう側に停まった。50mほど離れていた。 チキンを買う客だったら、もっと近くに停めるハズ。かと言って他に店があるわけでもなかった。樹木がさえぎっているので見えにくかったが、ワシもジムもジッと観察した。

  “あのエコノラインは、30年モノのアンティックだよジム…”

 “…よく知ってるな…”

 “モーターサイクルをアレに積んで野山に出かけるのが夢だったんでね…”

“…だけど、今どきあんなのに乗ってるヤツは、犯罪に関係してるのを宣伝してるようなもんだぜ…”

ジムの言葉は、半分真剣だった。 そして、その時、別のクルマがエコノラインに寄りそって停まった。これも年代モノだった。60年代の大型なアメ車だった。 ワシはスッとウィンドウから顔を退けた。ジムも同時に同じことをした。 何が起こるか、あるいは何も起こらないのか知らないが、あの連中と視線を合わせるのは不必要なことだった。


ジムとワシは、後部座席に乗っていた。 ジムは、片目だけ出して監視を続けようとしていた。

“ヘイ、ジム、ガンを出そう!”

ワシは、そう言いながら、後部のトランクルームに這い移った。

“ウン、コンビネイションは2011だ、M4はあるがタマが無い。右側のペリカンを開けてくれ、そこにピストルがある。タマもそのあたりにあるはずだ”

ワシは手早くロックの数字を合わせてペリカンケイスを開けた。三角形の角のまるいソフトケイスがあった。それを持ちながらタマを探した。フェデラルの箱があった。

“フォーティスミスでいいのか?”

“アー、それだ、でもマガズィンは空だよ”

ズィッパーを開けてソフトケイスからガンを出す。見たこともないピストルだった。 SIG P2340とスライドに刻印が打ってあった。 タマの内側を逆さにして50発のタマを床にまいた。右手で10発ばかり握ってマグに詰める。12発入った。もう一つのマグもフルにする。残りのタマはポケットに入れた。

“OKジム、アイムレディー‥”

ワシはジムの背中に向かってそう言った。このときは、まだジョーダン半分で、遊びを兼ねた訓練の気持ちでいた。 しかしタマと銃の準備ができたのは安心な気持ちだった。この国アメリカでは何がいつ起こるか判ったものではないからだ。

“…さすがに手慣れたもんだなイーチ、オレはヤツラの様子を見ることに気を取られて、ガンを出そうなんて考えなかったよ”

“イヤイヤ、これはコンバット気分の遊びというもんよ” “・・・だがな、その心構えってのが大切さ…なにしろヤツラは麻薬ギャングだからな…”

“えっ!売買の真っ最中か?”

“ビンゴだぞ。でかい箱をセダンの方が受け取り、エコノの方は紙袋だ。バイヤーは後から来たヤツラだな…あそこに停まったのは道路の両側を見張りながら取引ができるからだろう。賢いやり方だ…”

ジムの背後から、のぞいて見た。 二台のクルマは、窓越しに何かを話しているようだった。

“こっちのこと気にしないのかな?”

“クルマが空だと思っているんだろ”

“そうか…ところでジム、このガンは何だ?”

“オー、スィグプロのことか…それは、今月のNRAショウで発表されたはずだよ。ウィルコックスには、もっとずっと前からあるけどね…ミリタリーはすでにテスト中で、レイザー用のマウントをウチで造ったところさ”

“あーホントだ、レイルが切ってある…でもストッパーになる切り込みがないぞ…ガンを撃つと、反動でレイザーは前に滑ろうとするんだが、このままじゃスッポ抜けないか?” “ウン、じつはそのことをSIG社に伝えたんだが、あんまり反応がなかったな…よく判ってないみたいだった…ただし、言えることはだ、これでグロックは終わりかもしれんということだよ…フレイムを良く見てくれ”  ワシは、明るいところにピストルを移してよく観察した。質の良いパーカーライズかと思えたフレイムには少しのヒケがあった。 それはポリマー射出成形したときに温度変化でおこる現象だった。それにしても見事な造りだと思った。グロックのような安っぽい印象がまるで無いのだ。一目でポリマーだと見破る人はいないかもしれない・・それほどキッチリとしたフレイムなのだ。

“なるほど…これは良い出来だな…ワリと小ぶりだが229よりは大きそうだな…”

“アー、ちょうど229と226との中間だ、良いサイズだろ?それで値段は600ダラを切って売るそうだよ”

“ナニ?600ダラ以下だって?…それは安くきたもんだ、そりゃ売れるよ、同じような値段なのにグロックやベレッタを買うのは賢い判断じゃないもんね”  

ワシは、手にした「スィグプロ」を驚いた気持ちで眺めた。世には、多種のピストルが存在する。そして、今市場にあるピストルの中で最も優れたモノと言えばSIGなのだ。 SIGが一番だと考えるのはワシの独断ではない。FBIもミリタリーも、一般のポリスもガンスミス達も、知識のある人だったら異口同音にそう言うだろう。 では、スィグのどこが良いのか?ピストルの能力を判断するとき、大切なのは次の三項目。

1:頑丈信頼できること。

2:使いやすいディザイン

3:よく当たること。  


故障せず、ジャムせず、多様なタマにも対応でき、人が実際に撃って使いやすく、そして命中精度の高い銃ーーこれが理想のハンドガンなのだ。 スィグのピストルは、これらの三項目テストで抜群の性能を持っている。 ガンショップから100丁買って、箱から出し、いきなり1000発撃つーーそんな競争をしたとする。実際にそんなテストはしたことないが、個々の銃を撃っての印象から判断すると、以下のようになると思う。 1位 SIG226 2位 ベレッタ92F 3位 H&K USP 4位 グロック17となるだろう。

2位以下はダンゴで、SIGだけがトップをヒタ走るーーそんな結果が出るだろう。 FBIやスワットやスィールズの隊員達がスィグを選ぶ理由は、その信頼性ゆえなのだ。 トゥリガーを引くと毎度確実にタマを突進させてくれる銃。 これこそ闘いにおける真の相棒なのだ。では、なぜ、みんなSIGにしないのか?答えはただひとつーー値段が高いから。 ミリタリーや警察などには予算がある。大量に買うので安いほど良い。質の問題は値段の次になるというわけなのだ。 ただし、実際の闘いを仕事とするスワットや特殊部隊はケチなことを言わない。武器の性能こそ最優先なのだ。

“命は買えない。だから最高のピストルを買えっ!”

こうして予算も出る。  

ドイツのサワー社を傘下にしたスイッツァランドのスィグ社。世界一の工作機械を備えて、最高の銃を造る。工場の立派さも圧倒的で、ベレッタもH&K社も完全に負けている。ただし、SIGのモノは高価だ。 良いモノは、造るのにカネがかかるので定価も高いーーこれは当たり前のことなのだが、SIGが一般的に普及しきれない理由は、その値段あるわけだ。

“いつまでもベンツのようにカラ威張りしていては将来が危ない。日本車のように買いやすい値段の高級車をつくるのだ”

SIG PROは、そういう思想から造られたピストルらしい。 …スライドの造り、グリップの造り、サイトの造りーーすごく良い、上等だ…  いつしかワシは、スィグプロの観察に没頭していた。チェンバーのランプ部にはタマが滑った跡があった。においを嗅ぐと、そう古くない火薬燃焼の香りがあった。テストファイアをしたという印だった。 “ヘイ、イーチ、ボブとバーバラが戻ってきたぞ、出発だ” ジムが言った。 二人は紙袋とアイスティーのカップ4個乗ったトレイを抱えてニコニコしながらやってきた。内側からドアロックを解いてドアを開けてやった。

“待たしてゴメーン、客は他に居なかったのにノロいのよね、作るのが”

バーバラはウキウキしていた。

“待ってる間にコッチは、麻薬取引を見物してたんだよ、危うくイーチとやつらが撃ち合いになるとこだった”

ジムがジョークを言った。

“まあ、ホント?”

バーバラは、思わずといったかんじで周囲を見渡し、二台のクルマを発見した。そしてジッと見ていた。

“コラコラ、あんまり見ちゃいけないよ、襲ってくるかも知れないぞ”

と、ワシも冗談っぽく言った。 ボブがクルマを発進させた。いったんバックして停まり、ハンドルを切って道路の方に向かう。本道に出るとき、問題のクルマに20mまで近づいた。  

平べったいアメ車の中には4人の人影が見えた。助手席の男が双眼鏡でまっすぐにこっちを見ていた。そのレンズが紫色に光った。 ハッと、呼吸が停まった。

“ボブっ!ハーリアップ!飛ばせっ!”  

ワシは強い命令口調で言った。胸がドキドキっとした。ボブは、うなずいてグイと加速した。ぐんぐんとスピードは上がった。あっと言う間に200m離れた。振り向いて見るとアメ車はロールしながらこっちを向こうとしていた。 その動きはスローに見えた、が、後ろのタイヤと地面の間からは薄い煙が吹き出ていた。ワシだけではなく、ジムも皆も、事態を察して無言だった。 ボブは、アクセルを床まで踏みつけて前を睨んでいた。時速130キロでガランと空いた大通りを走っていた。アメ車は、300m後方にあった、が、距離は少しずつ詰まっているように見えた。 “あの走りは改造エンジンだ、追いつかれるぞ、どうする気なんだ奴らは?”

と、メカに詳しいジムが言った。

“道を聞きたいとか、アイスティーを分けてくれとか、そんな用じゃなさそうだよ”

ワシは、そう答えた。もう腹はくくっていた。 避けられない危険に遭遇した。ここで落ちつかなければ死ぬのだと思った。これまで習得した闘いの技術と戦術をフルに活用することでしか、この突然の危機を乗り切れないのだと思った。 奴らの作戦は単純だ。クルマのパワーを駆ってこっちに近づき、マシンガンやショットガンでバリバリ撃つ。停まったところでさらに撃ちまくって皆殺しにして立ち去る、いやバーバラを誘拐するかもしれないーーそんなつもりだろう。なにを勘違いして追って来るのか判らない、が麻薬犯罪者の知能なんてそんなものだ。奴らは、兎でもハントするような気軽さで追ってくるのだ。しかし、この狩猟は運の尽きだ。チビでヒョロい東洋人のオッサンの反撃を食って地獄に落ちるのだ! 後頭部が熱くなり、クワッとヘヤが逆立っていた。血液にアドレナリンが加わって、筋肉が増強した。怒りがこみ上げた。

“ブッ殺してやるっ!”

ブルンと身体が震えた。快感が貫いた。



“イーチ、奴らはドライヴバイでくるかも知れない、どうしょう?”

“ジム、かもしれないなんて考えは止めたほうがいいよ、だって、奴らの方針はマサにそうなんだから…でも任せてくれ”

ドライヴバイシューティングーー走るクルマから撃つこと。 アメリカでは年中行事なので皆知っている。 そこはビルや倉庫などが建ちならぶ地域だった。奴らはジリジリと迫っている。ポリスもいなければ通行人も無い。勝負は今だ。ここで迎撃するしかないと判断した。

“ボブ、300ヤード向こう、左のビルにペプシの広告が見えるか?”

“ウン、見える”

“あの角の手前で急ブレイキ、そして左に曲がれ、曲がったら30ヤードのところで道をブロックして停まれ。ワシが降りる。奴らが曲がってきて、停まりそうになったら急発進して逃げろ。追突されるかも知れないからホールドタイトだぞ。そして街に行き、ポリスに連絡するんだ、いいなっ?”

口早にそう言いながら、ワシはスィグプロのスライドを引いて放す。マグを抜き、ポケットのタマを1発とってマグにこめる。そのマグを銃にインサートし、ロック音を確認してから再びマグを抜こうとした。ロックされているのでマグは抜けない。再確認なのだ。 ちょっと迷ったが、デコッキンレヴァーを下げハンマーダウンにした、とたんに急ブレイキがかかった。急速にスピードは落ちて車体を右にかしげながらミニヴァンは左折して停まった。左のスライディングドアを開けるなり滑り出る。左手に握ったスペアマグをパンツの尻ポケットに押しこみながらビルのコーナー近くに走り寄った。 スィグプロのグリップを握りなおし、左手の親指でハンマーを起こした。 とたんにギャーンとイヤな音を立てながら大型のアメ車が突っ込んできた。そして目の前で急ブレイキをかけた。 窓は前後とも開き、ドライヴァーの男は顔をしかめてハンドルにしがみついていた。後ろの窓からはイングラムを握った長髪の男が乗り出していたが、急停止のために上半身が前にのめっていた。目の前のミニヴァンを疑視している二人には、わずか10mの横で銃を構えているワシの姿はみえていなかった。 スィグの照準はイングラムの男を追っていた。 いつ撃とうかと考えながら狙っていたが、相手が気づいていないのでクルマが停まるまで待った。前のめりになったクルマが大仰にひと揺れして停まった。

フロントサイトは男の横顔をとらえていた。ビアンキカップの10ヤードプレイトそのものだと思った。トゥリガーを引いた。スィグプロはカン高く吠える。マック10がガシャリと道路上に落ちた。続けてすぐ横のドライヴァーの頭も撃った。クタリと、男は首が折れたようになってハンドルにもたれかかった。 ななめ後ろの死角からアメ車に駆け寄った。サングラスをかけた男が振り返った。短く切ったレミントンらしいショットガンを持っているのだが、パニックで身体が反応できなくなっているらしかった。サングラスの奥にあるその目は、スリ足で近づいてくる銃口と東洋人を見て絶望の色を浮かべているのだろうか。距離3m、スィグプロの三度目の絶叫。同時に男のサングラスにボツと穴が開いた。後頭部から脳ミソが吹き出すのが見えた。すかさず銃を右に振って後部座席の男を狙った。上下ジーンズ、カウボーイタイプの長靴をはいた男がドアを開けながら外に出ようとしていた。 車内から巨大なルガーのレッドホークを引っぱり出すところだった。いかにも麻薬族の好みそうな銃だった。そのままクルマから出られてはまずいので速射する。ジーンズの尻に2個の穴が開くのがはっきり見えた。男はまるで蹴られたように道路に投げ出された。だが44マグナムは手放さない。呻きながらも上半身を起こして、自分を狙撃した相手を探していた。その目がワシと合ったとき、二発のブレットが胸部に炸裂した。 ハゥーンというような声を出しながらワシをじって見ていた。憎悪なのか恐怖なのか、その瞳には不思議な輝きがあった。その顔面をよく狙って撃った。鼻から後頭部を貫いた弾丸は、コンクリートの道路に当たって跳弾し、ギュインという音を残してどこかに飛んだ。ビクンと男は震えて死んだ。 アメ車の後に隠れながらポケットからマグを抜き銃を地面に置いて交換したマグにタマを詰める。 フルロードになったマグを尻ポケットに入れながら銃を握る。 エンジンの音は聞こえない。ワゴン車の奴らは来ないのだろうか。後をみるとジム達のミニヴァンがまだ停まっていた。三人でじっとこっちを見ている。 ワシは前方警戒をしながら後ろ向きに駆け寄った。

“イーチ、乗ってくれ、逃げよう!” “そうだな、よしっ”


 ワシはデコッキンレヴァーを下げながらミニヴァンに飛び込んだ。ボブはアクセルを踏んだ。ワシは後ろを見ていた。

 最初の角を右に曲がろうとした、その瞬間、ワゴン車が見えた。アメ車に追突しないように必死にブレイキをかけていた。

“ちょっと待て、ストップだ・・・” 

角まで走って片目だけで覗いた。二人の男がアメ車の周囲を回っていた。一人はAR15、もう一人はショットガンを片手に落ちつかない様子で話し合っていた。ワシは壁から銃と片目だけ出して狙いながら考えていた。

…どうしよう?…撃てるだろうか…

距離60m、並のピストルだったらフィクストサイトで60mは合っていない。しかしSIGは別格だ。信じられる気がした。

やがて、ショットガンを持った男がアメ車から箱を引っぱり出してきた。そして二人でエコノラインに向かって歩き出す。

…奴らのまるモーケか…だが、ミスってもミニヴァンに飛び乗れば逃げることはできる…

そう思うと、気軽にトゥリガーを引けた。60mといっても人間の平らな背中がターゲットだとサイティングは楽だ。ズダンッ、と小気味良い反動があり、遠くの男はAR15を投げ出しながら倒れた。となりの男は箱をドスンと落としながらこっちを見た。がビルのコーナーから銃と片目しか出していないワシを瞬時には発見できない。うろたえながらも、肩にかけたショットガンを握ろうとした。しかし仲間が突然倒れてから1.5秒という短い間にできることはそれくらいでしかない。片手がショットガンにかかるとき、男の上半身はスィグのフロントサイトに乗っていた。ビアンキカップのプラクティコォを撃つより簡単だと思いながらトゥリガーを引いた。その胸に.40口径のスラグがマッシュルーム化しながら深々とメリこんだ。男は朽木のように倒れた。その脇腹に向けてあと2発打ち込んで殺した。となりの半死体も撃った。

道路上では、もう何も動いていなかった。エコノラインの様子を伺う。フロントを通してリアウィンドウが見え、人影らしいものはなかった。弾倉交換したスィグプロをエコノに向けながらダッシュした。60mを一気に走った。横のドアをいきなり開けて2歩退る。車内の前方から後方をジリジリとクリヤーする。一番奥に女がいた。座って膝を抱くようにしてこっちを見ていた。細くて顔だちは良い。が、どこか卑しかった。怯えた様子だったが視線には獰猛なものがあった。

 “両手をゆっくりとあげなさい”

 胸をガンポイントしながら、ワシは穏やかに言った、が、女は動かなかった。

 “仲間のようにブッ殺されてぇのかファッキンビッチ!”

 思い切り怒鳴った。とたんに女は鋭く動いた。ワシの指は反射的にトゥリガーを引く。

二発目の弾丸が女の胸に吸い込まれるとき、その手には小さな拳銃が握られているのが見えた。倒れこんだところで白い耳に向けて熱いブレットを叩き込む。バッと片目が飛び出した。ひどい顔になって女は死んだ

 耳の奥でキーンという音がしていた。拳銃の発射音で鼓膜がヘンになっていた。ジム達のミニがゆっくりと近づいてきた。デコッキンレヴァーを押し下げた。そして、女のすぐ横にある紙袋を引っ張り出した。中には札束がぎっしりと入っていた。それを引きずるようにしてミニヴァンに駆け込んだ。

 “OKボブ、レッツゲラアウタヒヤ!”

皆で周囲を見た。誰もいなかった。制限速度で現場を離れた。2分も走るとホッとした。たった今起こった、あのガンファイトは夢かと思えた。なんでもない街並みがキラキラとしていて美しいとかんじた。


“ホラ、ミヤゲだジム…”

と、ワシは札束を指差した。

“……すごいショウを見せてもらったぜイーチ、しかし、なんであんな簡単に4人もの男を撃てるんだ。しかもアッと言う間に…”

 “オー、あれはカーチェイスの基本だ。相手のクルマがこっちより早かったら追いつかれて撃たれる。だから角を曲がってすぐに停まる。降りて待ち伏せする。相手は動いているがこっちは銃を構えている。4人くらいだったら5秒もあれば充分だ。

奴らが観光バスいっぱいの人数でこないかぎりは勝てるというわけだよ。まるでキャンプハミルトンでやったスワット訓練を再現したみたいだった。ただターゲットが人形か人間だかの違いでしかなかったな”

“そんなトレイニングまでやったのか? ただ思いつきの作戦じゃなかったんだな、だからあんなにスムーズにやれたんだ。じゃ、最初に角を左に曲がって留まるのにも意味があるんだな?”

“先ずはドライヴァーサイドを狙うこと。運転してる奴はすぐには撃てない。となると、まず後ろの奴を狙えばよい。そしてドライヴァーを撃つ。クルマはマヒする。向こう側の奴らはそれから撃つ、というわけだよ。大切なことは、相手に攻撃の猶予を与えないことだよ。映画のように互いに向かい合って撃ちまくるのはゼッタイに避けるーーこれはスワットの鉄則だ。ネイヴィースィールズだってそのようにおしえるんだよ”

 “ウーン、なるほど…撃ち方がいくら巧くてもダメで、勝てる状況を作ってから一方的に攻撃することが重要なんだな…”

“そう、こっちがいくら撃つのが巧くても、相手が三人とかで正面対決だったらまず勝ち目は無いと考える。それがガンファイトの常識というものだよ”

“それにしても見事なテクニックだった。命を助けられたという実感だよ。まだ震えが残ってるよ、有り難うイーチ…”

“イヤイヤ、ワシ自身のために闘ったのだから礼はいらないよ。でも、なぜ現場に残ったんだ?すぐに行けって言ったろ?”

とボブに非難がましく言った。すると、

“あ、あれは、えー、ボスがそうしろと命令したもんだから…”

と、ボブはジムの方をチラリと見ながら言ってウインクした。

“そう簡単に仲間を捨てられると思うか?”

ジムは強い口調で言った。

“ま、追求しないでおこうか…”

 そう言いながらワシの心は嬉しさに満たされていた。信頼できる友を得たと思った。

ふと気がつくと、まだスィグプロを右手で握っていた。マグを抜き、スライドを引いてチェンバーのタマを膝の間に落とす。ハンマーをダウン、座席に置いた。チェンバーから抜いたタマはマグにこめる。ついでにポケットのタマもひとつひとつ、ゆっくりとマグにこめた。

“このハンドガンがなかったら、今ごろワシラの身体はメリこんだ大量のタマで重くなっていたかもしれんね”

ワシは、そんなジョークを言った。

“いきなり実戦で撃ったわけだけど、どうだった?そいつは良い銃だと思うかい?”

ジムが聞いた。

“ウン、まずグリップが良いね。226は左の上の方が出っ張っていて、あれがイヤだったけど、これはスッキリとしていて小さくて、すごく良いな…リコイルがマイルドに感じるのはグリップのせいかも知れない。ただ、ハンマーのホーンが小さいので起こすとき滑りやすい。スライドリリースは親指のかかりが良いのだけどデコッキンレヴァーはリーチしにくいな。それに固い感じだ。それとマグリリースが下にありすぎて一瞬迷ったよ。でも、まあ、それらは マイナーな問題だ。トータルで言えば最高なピストルのひとつだよ。ベレッタやグロックとは比べ物にならないくらい上等なトゥールだな……”

 小柄でタフ、鋭敏な強打者。スィグ社の新作「SIG PRO」をワシは好きになっていた。


“ところでどうする?警察に直行?”

心が落ちついたところでワシは聞いた。

“それをオレも考えてたんだが、目撃者が居なかったことだし、ほっとこうかと思うが、どんなもんだろう?”

“あ、そうしよう”

ワシは即答した。

“一応、FBIの上の方には言っておくよ、でないと、奴らの体内から出たタマからバレてしまうだろうから”

と、ジムは言う。

“このモデルはまだ少ないのか?”

“少ないなんてもんじゃない、現在アメリカにあるのはたったの10丁だ。SIGのエイジェントとミリタリー関係、あり場所も決まっているから逃げられない”

“じゃ、この奪ったカネも差し出すのか。残念なことだなぁ……”

正直な話、ワシはそのカネを皆で山分けしたかった。4人で分けても新しいランドクルーザーを買うには充分な金額なのだ。するとジムは言った。

“オレは君のスポンサーだぞ、カネのことでならメンドーみるから、そんなモノはほっとけよ。だいたいな、それはニセガネなんだから使いようもないじゃないか”

“エッ?ニセ札だって?”

“ウン、中程度のニセモノだよ”

ジムは、いつの間にか札の一枚を手にして揉んでいた。

“ヤーレヤレ、ボーナスかと思った。喜びかかって損したぜい。バーバラ、ティーをくれないか、ノドが渇いたよ”

アイスティーをゴクゴクと飲んだ。他の三人も急に気がついたように、口にストローを突っ込んだ。

“あー美味いなぁ…”

生命の危険から脱出すると世の中が美しく見え、水でさえ美味しく味わえるものだ。

以前、グロックで闘ったときジャムがありパニックしたことがある。なぜか、それを思い出しながらアイスティーを飲んだ。


“あの…こんなこと聞いてもいいのかしら…あの…人を殺すのって平気なものなの?…殺した後でそんなに平然としていられるもの?いえ、ただ私は、なんというか、驚いてしまって口もきけないほど興奮してしまっているんだけど…”

と、無言だったバーバラがコホンと咳払いしたあとそう聞いた。

ワシは、答えた。

“いつだったか、バーバラは、ペットに付いたノミやダニをつぶしていたよね。そのあとディナーで牛のステイクを食べたよね。つまり他の生命を絶つことには抵抗無いわけだ。ただ相手が人間だということでショックを受けたんだよね。でもね、考えてごらん、生物界で最も危険なのは「悪人」という人種じゃないのかい?奴らは、人間の形をしているけど、中身は獰猛な野獣よりもっと危険なんだよ。弱く真面目な人から奪い、不幸にさせ、殺すんだ。そんな奴らが「人」だなんて感覚はワシには無いんだよ。はっきり言って、奴らを殺すのは喜びだな。自分と人のために闘うというタイプの人間がもっと増えると、その国は平和になると思うんだ。生きるということは、闘いだというのが動物界の原則で、人間達はそれを忘れかかっているように思うんだよね…”

これは、ワシの信念だった。

バーバラは、黙って考えていた。


次の朝、ホテルの部屋に配られたサンディエゴタイムスを広げた。その記事は意外に小さかった。現場の写真さえも無い。

「麻薬ギャングの撃ち合い。7人の死体。その内の3人はFBIが追っていた幹部達。麻薬取引中のいさかいが原因か?ーー」

そんな程度しかなかった。

ワシとジムは、顔を見合わせてニッと笑った。そのときドアノックがあった。朝7時、サンディエゴFBI支局の捜査部長だった。

“お早うチャック!”

ジムが親しげに握手した。

“まあ、ストーリーは電話で話したとおりだが…これがイーチだよ”

とジムが紹介してくれた。

“エッ、ホントにこれがイーチか?”

チャックは意外そうだった。

“君のことはサンフラン支局の連中から聞いている。そして、昨夕は現場も見た。あんなにクリーンなヒットは見たこともないよ。キレイに死んでいた。さすがにジーン ジョーンズの直伝だと驚いていたところだ……”

“だけど、イーチがどんな怪物かと思っていたら貧相な日本人のただのオッサンだって言いたいんだよね”

“エッ?イヤイヤ、貧相だとは思わん、が強そうには決して見えんな。無害な芸術家になら見えるかな…”

皆で笑った。

“どうだ、ホテルの一室に食事を用意させたからブレックファストでも食おうや”

ジムがそう言って立ち上がった。

三人でエレベイターで降りた。ワシは、チャックが抱えている麻薬の箱を上から覗いた。

“…アイワズダンム…コケインの方を奪ってくればカネになったのに…バカだった…”

“エッ?なんだって?……ン?”

横でジムがニヤニヤと笑っていた。


 朝食ではハムにオーヴァーイーズィーを乗せたものを食べた。談笑中に隣りに座っていたバーバラがさりげなく紙片をワシに見せた。それには「今夜9時にあなたの部屋をノックしますわ」と書かれていた。ワシが読み終わると同時にバーバラは紙片を手の中で揉んで自分のポケットに入れた。ワシはフォークを持った右手の親指をちょっと立てる。バーバラは下を向いて微笑んだ。


         ☆☆☆


このストーリーは、事実をワズカながらタクサーン歪曲し、トンガラシやコショーやタバスコで味をつけたり、煮たり焼いたりしてあります……と書いておかんとヤバイ部分もあるとですよ。

―ヒッシャ―


😅ははは

今読むと、異常に写実的なので、創作だというのがウソだろうとルーさんに突っ込まれると納得のいく否定などできないので、そのことには触れないでほしいよ😁


ところで・・・

その後にジム社長から9mmのSIG PROが贈られてきたのだよね♪

そこでゆっくりと実射テストをしたんだよ、しかし、226を上回るだけの性能はないと判断したんだわ。ワルくはないが、魅力もないという結論だった。それもあってか、コレ用のウエポンライトは作られなかったんだ。それと、マグが専用なので226から乗り換えるのに躊躇するのさ。

バーカだねぇ💦・・

こうなると販売は伸びず、SIGプロは市場からゆっくりと消えてゆくという運命をたどった。今ではこの存在を知る人も少なくなった。

今は拳銃の値段が上がっており、コイツはGUN庫の中で場所を占めており、ジャマになったので売却しようと想っている・・けどタクマ調べでは375〜500ドルでしか売れないと💦

これではケニーのためのトゥリガー代にしかならん😢


by ♪アナタナーラ ドオスルゥー♪と歌いながら、コレはヨシの所有になっていないか心配になっているワシ

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